「銭湯芸術家」という肩書きでアート作品を制作するのは、以前東京銭湯でもご紹介した、ウエハラヨシハルさん。
銭湯の軒先で見かける「わ」の板(わいた=営業開始)、「ぬ」の板(ぬいた=営業終了)、の作品が大変有名で、ウエハラさん自身が考案したアイデアです。
現在ウエハラさんの作品は【台東区】燕湯、【足立区】大黒湯、【足立区】タカラ湯、【足立区】若松湯、神奈川県のいなり湯など、各所の銭湯で鑑賞することができます。
そんなウエハラさんの作品をご紹介するとともに、銭湯を舞台に作品を作り続けるウエハラさんの想いを伺いました。
●○●○●
こちらの看板は、男湯、女湯、それぞれの入口に飾ってある作品です。
昔、三助さん(銭湯でサービスを行う従業員)を番台から呼ぶ時に男湯は拍子木を1回、女湯は2回打っていたことをヒントに制作されました。
作品から銭湯の歴史を学ぶことができますね。
若い頃から現代美術家として活動していたウエハラさんは、当時から個性的な作品を制作し展示を行っていました。しかし、芸術作品を美術館やギャラリーで発表することに疑問を抱いていました。
「美術に興味のある、限られた人にしか作品を見てもらうことができない。もっと気軽に、近くで作品を見てもらいたい。」
そんな想いから、地域の憩いの場である「銭湯」に発表の場をこだわって作品を製作するようになりました。
そのため、作品も銭湯をテーマにしたものや、古き良き和風の銭湯の建物の趣に合うような、季節を感じることの出来る作品が中心です。
「銭湯芸術家」として活動始めた当時は、作品を展示することを受け入れてくれる銭湯は少なかったそうです。ウエハラさん自身が銭湯に出向いて交渉を重ね、1996年、横浜の中島館という銭湯にて初めて銭湯作品の大規模な展示が行われました。
洗い場や浴槽の中まで作品が飾られ、アートに囲まれながら入浴するという、とてもユニークな展示となりました。
「今までアートとは縁の無かった『銭湯』を舞台にすることで地域の方にも注目してもらえる。」
銭湯と芸術。今まで交わることが無かったもの同士がウエハラさんによって結び付けられ、銭湯がアート作品を引き立たせ、お客さん同士のコミュニケーションの場として盛り上げています。
「近年廃業する銭湯が増えており、存続はなかなか厳しい時代。しかし地域にとって大切な場所は可能な限り残したい。アートが地域の方や、銭湯に馴染みのない若者に、銭湯に目を向けてもらえるきっかけになれば嬉しいです。」
ウエハラさん自身銭湯が大好きで、地元の銭湯はもちろん、旅行等で遠方に行く際も、近くにある銭湯を調べて行くそう。
そんな銭湯の発展と存続を願って、今も作品を作り続けています。
●○●○●
取材のため伺った【足立区】タカラ湯では、「金魚ねぷた」展示の個展開催期間中のため、鮮やかな金魚達が並んで出迎えてくれました!
「金魚ねぷた」とは津軽地方に伝承されている民俗行事で、金魚は「金を運ぶ魚」、つまり”幸せの魚”なのだそう。
当初、「金魚ねぷた」の展示は8月15日(土)終了予定でしたが、好評のため8月29日(土)まで会期が延長となっています。
現在、ウエハラさんは秋展示にむけて作品を製作中とのこと。次はどんな作品が出迎えてくれるのでしょうか。
季節の流れを感じながら、銭湯とアートを共に楽しみましょう。
【ウエハラヨシハルさん プロフィール】
銭湯芸術家。神奈川県生まれ、神奈川県在住。
日本人の作った文化である「銭湯」を今一度見直すため、全国各地の多数の銭湯で作品を発表。
活動はこれまで新聞、テレビ番組でもしばしば取り上げられる。
銭湯も時代とともに様変わりしていく中、昔ながらの和風銭湯にこだわった創作活動を行う。
銭湯ソムリエを目指し日々入湯中。銭湯、音楽、巨大建造物が好きです。
INSTAGRAM好きな湯は炭酸泉。温冷浴修行中。