COLUMN

銭湯、お風呂に関する執筆コラムを掲載。

SCROLL

MENU
BACK

風呂好きが沸いた「湯沸かし市」の仕掛け人、“SENTO FOREVER”って?

取材・文:藤田華子 撮影:スーパー銭湯さしすせそ


(撮影:柴田)

2019年8月、酷暑の東京。
会場がオープンする10:10より早くから、神田の裏路地には30人を超える行列が。お目当ては、全国から選りすぐりの銭湯、サウナ、湯に関するグッズが勢揃いするクリエイターズマーケット「湯沸かし市」!

銭湯に入る胸の高鳴りを思い出させる暖簾をくぐり、買い物かごではなく、桶に欲しいものを入れて歩く。2日間で合計1,600人以上もの参加者を呼んだこのイベントは、11月に渋谷・改良湯で第二回目を開催。それも1日で800人以上が集まる盛況ぶりだった。

主催しているのは、「銭湯文化を永遠に!」をキャッチコピーとして掲げている“SENTO FOREVER”(通称:フォエバ)。かつて銭湯にまつわる展示をしたデザイン学生4人組に新たな仲間が2名加わり、いまは6人で活動している。

今年の年始には「海外出張!湯沸かし市 in 台湾」を実現し、楽しく、可愛く、パワフルに銭湯文化を広めている彼女たち。結成を振り返りつつ、日常、そして野望について、プロジェクトの中心にいる3人に話を聞いた。

 

SENTO FOREVERのはじまり

写真左から、藤澤茜里さん、大竹沙織さん、林真理恵さん、湊七海さん、塚本さくらさん、有本彩子さん(撮影:柴田)

――今回はフォエバの6人を「スーパー銭湯さしすせそ」の3人が『殿上湯』で撮影しました。皆さん仲が良くって、とても賑やかでしたね。

大竹 全員で集まるの、けっこう久しぶりなんですよ。

 うんうん、2か月ぶりくらいかな? 近況報告で盛り上がっちゃって(笑)。

 

――大盛り上がりだった「湯沸かし市」の主催者SENTO FOREVERとはなんぞや?というところを聞いていければと思います。まず、結成の経緯を教えてください。

 私とさっくー(塚本)、あかりん(藤澤)、彩子(有本)が同じ大学でデザインを専攻していて、「3年生の春休みに展示をやろう!」と、集まったのがきっかけです。テーマを探していたときに自由が丘『みどり湯』の併設ギャラリー「yururi」を発見して。それから銭湯について調べたり、「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」のイベントに行ったり、働いている方にお話を聞くうちにハマってしまって。

塚本 そうして開催した最初の展示が、2018年2月の「YOU&湯~あなたと銭湯~」ですね。銭湯を取り巻く物語を、私たちなりに解釈して表現しました。

 

大学在学中に結成したSENTO FOREVER。当初は湊さん、有本さん、藤澤さん、塚本さんの4人で構成されていた

――それがSENTO FOREVERの始まりですか?

 そうですね。最初に、いろいろな方のお話を聞くうちに銭湯が減っていると知って。デザイン・プロジェクトチームとして若者が銭湯を楽しむきっかけを作りたい。それが巡り巡って銭湯文化を盛り上げられればと思ったのが、結成のきっかけです。

 

――なるほど、だからSENTO FOREVER。

 「銭湯文化を永遠に!」っていうキャッチコピーはあるんですけど、う~ん……名前はノリですね(笑)。

塚本 それで、銭湯初心者の私たちが「銭湯を知ろう!」というテーマで活動していくうちに、たまたまKITTE丸の内のスペースを借りられることになって。2018年7月に「セントーフォーエバー」を開催しました。内容的には、湯沸かし市の前衛ですね。銭湯グッズを販売したり。

 

KITTE丸の内で開催されたセントーフォーエバー

期間中の4日間で、来場者数は1万4000人を超え、大きな反響を得た

 まりりん(林)に知り合ったのも、このころです。KITTE開催の前に銭湯イベントで何回か見かけていて、「可愛い子がいる!」と思って話しかけて(笑)。まりりんはお風呂をモチーフにしたアクセサリーを作っていて、実はすごく近い領域で活動していたんです。

 

――このときは、みなさん大学4年生だったんですよね?

塚本 はい。最初は自分たちが女子大生だっていうのは隠していて、ちょっと正体不明な感じだったと思います(笑)。

 

――就職してからも続けていこうというのは、みんなで話していたんですか?

 活動は在学中までかなと思っていたんですけど、KITTEで「セントーフォーエバー」をコーディネートしたのがすごく楽しかったから、またやりたいねって話していて。「これからどうしたいんだろう?」と考えていたタイミングで、沙織さん(大竹)と話す機会があって。

大竹 私はデザインを担当した『喜楽湯』Tシャツを、もっと広く売っていきたいと思っていたんです。それを『喜楽湯』番頭の中橋さんに話したら、「クリエイターズマーケットとか、良いんちゃう?」と言ってくれて、「それだ!」って。

 

途中加入の大竹さん(写真左)だが、湯沸かし市には構想段階から関わっていたという(撮影:佐々木)

大竹 どうしたら「クリエイターズマーケット」を実現できるか考えていた頃、荒川区の『梅の湯』で「銭湯文字作り」のワークショップを開く機会があったんです。そこに、なっちゃん(湊)やさくらちゃん(塚本)が来てくれて、二人にアイデアを話したらとても盛り上がりました。
「めっちゃいい!」「こういう作家さんもいるし、あんな場所でやったらいいんじゃない?」「音楽もやりたいね!」みたいに、どんどんアイデアが広がっていったんです。私ひとりじゃ絶対にそんなアイデアは出てこないし、実現も難しい。それなら一緒にやろう!となって、実現に向けて動きだすことになりました。

 

大学卒業。社会人になっても活動を続けられた理由

(撮影:佐々木)

 そんな感じで「湯沸かし市」の構想ができたんですけど、新卒で就職したメンバーが4人もいたので、全員の予定を合わせるのがかなり難しくなりました。

大竹 夏の開催を目指していたのに、なんだかんだで6月になってしまい「いよいよやらないとまずいぞ。やるぞ!」と、急ピッチで準備を進めたんです。

 実質一ヶ月くらいで準備したよね(笑)。

 

――みなさんそれぞれお仕事があるなかで、日々はどんなやり取りをしているんですか?

大竹 Slackに「new business」っていうチャンネルがあって、こんなところから声かけてもらったよとか、可愛いもの、気になるものをポンポンって投げてますね。あと、みんなのInstagramのストーリーズもチェックしてます。流行りをたくさん知ってる人、Z世代の感覚をちゃんと言語化できる人がいて、かなり面白いチームだなって思います。

塚本 Slackも「情報共有しなくちゃ!」っていう感じではなくて、おしゃべりしている感覚です。好きなものが似てますし。

 

――楽しみながらっていうのが、今日の撮影の様子を見てても伝わってきて。

塚本 Slackに、「思い立ったら風呂と餃子」っていうチャンネルがあるんですよ(笑)。

大竹 全員で集まることは珍しいんですけど、2、3人で突発的に「今日餃子行ける人〜?」みたいな感じで集まって、お風呂入って、餃子を食べながら何となく最近のこととかを話したりはしますね。

 

(撮影:曽根)

(撮影:佐々木)

――餃子コミュニケーションと、お風呂コミュニケーションがあるんですね(笑)。平日、仕事をしている傍らプロジェクトを動かす大変さはありますか?

 大変……だと思います。

塚本大竹 うん、うん(笑)。

 自分の仕事や勉強の忙しさによっては、「ちょっと一旦おやすみします!」とかフレキシブルにやってます。でも仕事と思ってやっていないので。お互いにできる範囲で、できないところは助け合ってうまくやっている感じですね。とはいえ、スケールアップしてきたので趣味とも言えなくなってきているから……仕事でもないし趣味でもないし、これはなんでしょう(笑)? 本気の遊び?

大竹 難しいところです。でも確実に、本業での経験をSENTO FOREVERでも活かせているし、SENTO FOREVERの経験が本業でも活かせている。両方の人脈が噛み合ったりもして、遊び以上の実りある活動になっていますね。やりたいことを自分たちの力で実現して、その場を作るのがすごく楽しくて。

 遊び以上業務未満みたいな。

大竹 うんうん。だから逆に、業務だったら割り切れるところも「湯沸かし市」はこだわりたくて。

塚本 わかる!

大竹 湯沸かし市のコンセプトである「好きを沸かそう」は、わたしたちのモットーでもあるんです。だから絶対に、自分たちの好きなものを詰め込もうって決めているんです。業務と違ってしがらみがないから、自分たちが燃えることしかしない。欲望のままに活動しています(笑)。

 

インタビューに答える三人を見守る様子もたのしそう(撮影:佐々木)

――6人分の欲望が炸裂するとなると、意見がぶつかる瞬間はないんですか?

塚本 みんな、自分の言いたいことを言うんですよ。結成当時から自分の意見ややりたいことを持ってて、それが全員違う方向を向いているときもあるんです(笑)。でも結果的にまとまるよね。

 まとまる、まとまる。お互いの意見を素直に言い合うことはするけど、喧嘩はしないよね。

塚本 逆に、何も言えないほうがまずいのかなって。お互いの意見を言い合って、一番いい形を実現するためにみんなが動く。やっぱりそれぞれ、こだわりとか趣味とかモチベーションも違うので、意見の交換は大切だと思います。

大竹 私からすると、フォエバってみんなコミュニケーションが上手だと思います。「個人的にはこう思うけどね」「~かな?」っていう感じで、次の段階に向けたコミュニケーションをしているなって。お互いの特性をすごく知ったうえでのお仕事フェーズみたいな。

 みんなでたくさんお風呂に入りましたからね……お風呂のおかげっていうのも、あると思いますよ。

塚本 実は最初に集まった4人って、いわゆる“仲良しグループ”ではないんですよ。私となっちゃんは専攻コースが一緒で、彩子は音楽好きな友だち、茜里は中学の同級生なんです。展示をやろうと決まってから一緒に銭湯に通いながら、どんどん仲を深めていきました。

 

(撮影:佐々木)

――素朴な疑問なんですけど、すこしずつ規模を大きく、活動の幅を広げられてきたのはなぜだと思いますか?

 これまでイベントを開催してきた場所も紹介してくれる方がいたり、出店者もほとんど知り合いなんですよね。私たちの強みは、こうして協力したり支えてくれたりする人たちとの繋がりだと思っています。

大竹 フォエバのみんなは、とにかくフットワークが軽くてどこにでも行っちゃうんですよ。いろんな展示会やイベントに行って、自分たちの目で見て、手で触って、作り手の人たちと直接話して仲良くなってる。そうやって自然にネットワークを作ってて、すごいなーって思ってました。

 銭湯界隈の人が面白くて、とにかく楽しいんですよね。あとSENTO FOREVERには、“VIP”っていう協力者もいて。イベントのスタッフとか、広報、什器の準備をお手伝いしてくれるメンバーが30人くらいいるんです。

塚本 大切すぎて、“VIP”って呼んでるんですけど(笑)。友だち、後輩、お風呂好きなど……本当に、助けてくれる人が多かったのは大きいですね。

 

第2回湯沸かし市での「VIP」を交えた集合写真

 

夢かと思った「湯沸かし市」の盛り上がり

――そうして開催された「湯沸かし市」は、どうでしたか?

大竹 まず、行列ができていたことにとても驚きました。「えっ!?」って。友だちが10人くらい来てくれるくらいかなと思っていたら、行列がどんどん伸びていって、オープンしたら会場が30秒でいっぱいになって。私、感情がすごいことになっちゃって一旦トイレで深呼吸しましたもん(笑)。「夢じゃないんだ!」って。

 

塚本 自分たちのTwitterとInstagram、あとは「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」の記事くらいでしか宣伝していなかったし。何人来るかわからなかったので、かなりびっくりしました。

大竹 うんうん。私たちも出展者も来てくれた方も、全員びっくりしてた(笑)。

 だからオペレーションが万全じゃなくて、すごくレジをお待たせしちゃったりしたんです。申し訳ないなって思っていたら、「ここに来ただけで、ととのったね~」って買い物を終えた女の子たちが言ってくださって。すごく嬉しかったですね。

 

――第二回目は一度台風で開催中止したあと、“おいだき”として改良湯で開催されました。そちらはいかがでしたか?

 台風で一度流れてしまっているし、会場の『改良湯』さんには朝早くからお店を開けてもらってるし、ご迷惑をかけちゃったなと思っていたんですけど、オーナーさんに「ご褒美みたいなイベントでした」と言っていただけて。

大竹 私たち、「銭湯業界をどうにかしたい!」という気持ちはそんなにないんです。それはどうでもいい訳じゃなくて、どうにかしようなんて恐れ多いし、逆に「楽しませていただいている」感じなんです。それでも「湯沸かし市」を二回やって、『喜楽湯』さんや『梅の湯』さんが「自分たちも負けてられない!」と言ってくれたのは感慨深かったですね。こんなにグッズが盛り上がってるんだから、俺たちにもできることがあるって。

 「グッズを作れば『湯沸かし市』に出せるぞ!」って銭湯の方がTシャツを作ってくれたり、その場で知り合ったクリエイター同士がコラボした話を聞いたり、業界の方が盛り上がってくださっているのが伝わってきて。良いきっかけになれたのかなって思いました。

 

初の海外進出。今後の野望

2020年1月5日、台湾で行われた「2020 閣樓友京島市集」に出展した

――年始には「海外出張!湯沸かし市 in 台湾」でしたね。台湾はどうでしたか?

 サウナ好きの知り合いに声をかけてもらって、台湾×日本がテーマの「2020 閣樓友京島市集」というイベントにお邪魔したんです。

大竹 台湾には銭湯カルチャーがないので本当に未知数だったんですけど、そのイベントに来てくれていた人たちは情報感度の高い人が多かったように思います。Instagramの写真が綺麗だったり、30万人もフォロワーがいたり。そういう人たちが可愛いって買ってくれてるということは、その人たちのファンにも興味を持ってもらえるんじゃないかなって。台湾への発信も面白そうだなと思いました。

 単純にグラフィックを可愛いって思ってくださったり、日本の銭湯文化に興味を持ってくださったりして、いろんな軸で楽しんでもらえたのかなと思います。それと、このイベントに合わせて墨田区・京島の銭湯マップを英語で作ったんです。銭湯の入り方や、マナーも書いて。海外からのお客さまもターゲットにできたらいいなと思っています。

 

――今後、やってみたいことはありますか?

大竹 個人的には、銭湯に関わるデザイナーをもっと増やしたいなって思います。私もたまにイベントやスタンプラリーのポスターを作るんですけど、私だけでは広がらなくて。たとえばイラストレーターさんにポスターを描いてもらうことで、そのファンが参加してくれたり。「湯沸かし市」がマッチングの場にもなれればいいですよね。銭湯文化が好きなクリエイターははいっぱいいると思いますし、実際に話す場があれば銭湯の方がクリエイターに発注するハードルも下がるはずです。そうやって、銭湯に還元できたらいいなと思います。あとは、noteでもっと活動を発信していきたいです。

 noteはすぐにやりましょう! いまはSNSだけなんですけど、もっと発信したいよね。

大竹 うんうん。私たちはたまたま銭湯に興味があったので銭湯をテーマにやっているけど、たとえば落語とか、きっと他の界隈にも応用できる知見が貯まってきているかなって。それを発信することで、小さくてもいいので誰かの助けになれたら。あと、イベントに登壇とか……できたらいいな。

 銭湯、サウナ、お風呂はアウトドアやファッション、音楽も文脈的にマッチすると思っているので、ほかの業界も巻き込んでいきたいんです。そうするとフェス的になるから、食べ物もやりたい。それでこのあいだ、みんなで「食品衛生責任者」の資格を取ってきました。

塚本 メンバー個人の趣味や好きな人と関わりたいっていう野望もあります。彩子は大原大次郎さんとお仕事したい夢があるし、まりりんは銭湯好きなバンド・シャムキャッツとか。

 うんうん! 実は湯沸かし市以外にもコラボイベントやプロデュース案件も企画中です。あと、時期は未定ですが「湯沸かし市」第三回目も開催しますので、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

 

(撮影:柴田)

SENTO FOREVER

『銭湯文化を永遠に!』をキャッチコピーに掲げ、デザインで沸かすプロジェクトチーム。メンバーは女性6人。
Twitter:@sentoforever
Instagram:@sentoforever
・湊七海さん(上段右端)
プロジェクト・マネージャー、SNS担当。ふだんは外資系広告代理店でジュニア・アートディレクターとして勤務。
Instagram:@pekonachu723

・塚本さくらさん(下段右端)
お財布管理担当。普段は埼玉にある温泉に勤務している。
Instagram:@sakusaku1219

・大竹沙織さん(下段左端)
デザイン制作、コピーライティング、企画を手がける。所属はデザインオフィスDSCL Inc.。新規事業開発、UI/UX開発など、デザイナー伴走型のプロジェクトに携わる。
Twitter:@otakesaori

・藤澤茜里さん(上段左端)
ゼネコンで意匠設計をしている。SENTO FOREVERでは、イベント会場図面の作成などを行う。

・有本彩子さん(上段中央)
カルチャー面の監修を担当。ふだんはデザイン事務所でグラフィックデザイナーとして勤務。
Instagram:@ayako_sandc

林真理恵さん(下段中央)
現役の大学4年生。お風呂マークのアクセサリーを制作しながら、SENTO FOREVERの全般をサポート。
Instagram:@0_marima_0

スーパー銭湯さしすせそ

スーパー銭湯さしすせそ

日本大学芸術学部写真学科の3人によるグループ。フードアート担当(曽根)、ポートレート担当(柴田)、ファッションポートレート担当(佐々木)と、それぞれ異なる得意分野をもつ3人のメンバーで構成されている。

Instagram:@super_sasisuseso

AUTHOR

藤田華子

TAG

SENTO FOREVER湯沸かし市銭湯
  • FACEBOOKでも記事をお届け!
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう

RECOMMEND

ARCHIVE

RANKING

PAGE TOP