COLUMN

銭湯、お風呂に関する執筆コラムを掲載。

SCROLL

MENU
BACK

子どもの声が響く活気ある銭湯へ!西小山『東京浴場』リニューアルオープンへの道

「脱衣所の間の壁を取り払って、大きな待合室を作るんです。そこに、家族が自然と集うような銭湯にしたくって」

そう語るのは、西小山にある『東京浴場』のリニューアルオープンに向けて奔走中のサガラマサユキさん(21)だ。IT業界でサラリーマンとしてバリバリ働いていたサガラさんは、とあることがキッカケで銭湯に転職し、『東京浴場』の店長として銭湯経営を担うことになった。

どうして銭湯業界へ飛び込んだのか? 銭湯への想いとは?

絶賛改装中の『東京浴場』にお邪魔し、サガラさんに話を聞いた。

 

子どもの声がする銭湯を作りたい

――こんにちは〜!

天井高なので寒くてすみません…!今後、シーリングファンをつけて暖かくする予定なので今日はお許しください(笑)。

 

――たしかに、すごく天井が高いですね!

そうなんです。
西小山駅から徒歩1分という好立地で、これだけの広さと天井の高さがある空間は都心だとなかなかないと思います。
だから、脱衣所の仕切りは移動式本棚にして、銭湯全体をひと続きの空間として使えるようにする予定です。

 

――それはすごい!休業日にはイベントも企画されるんですか?

はい。場所としての貸し出しだけでなく、自主企画も実施していく予定です。
僕は、子どもたちがいる活気のある銭湯がとても好きで。おばあちゃんが、子どもたちを見て「かわいいねえ」って声をかけたりするじゃないですか。
だからこそ、家族連れが来てくれる銭湯にするための工夫をしようと思っているんです。

 

――たとえば、どんな工夫を?

目の前がスーパーなので、人通りがとても多いんです。
外壁をガラス張りにしてフロントやロビーが外から見えるようにすると、オープンな雰囲気を出せるんじゃないかと思っています。
あとは今ある脱衣所の壁を取り払って大きなロビーを作り、キッズスペースやたくさんの漫画を設置するのもいいなぁ、と。家族でくつろいでもらえる空間にしたいんです。

 

――とてもひらけた雰囲気になりそうですね!サガラさんが、そこまで家族連れにこだわる理由はどこにあるのでしょうか?

銭湯に行かない人の多くは、子どものときに家族で銭湯に行った原体験がない人だと思っていて。
だから家族づれが多い銭湯を作れば、10年後20年後、次の世代が子どもを連れてきてくれると思ったんです。

 

銭湯デビューはたった3年前

――サガラさんの銭湯好きはいつからでしたか?

3年くらい前ですね。高校卒業後に上京して、会社の寮で暮らしていた頃です。
寮のお風呂にはいつも先輩がいるので、全然落ち着かなくて(笑)。初めて行ったのが立川の『梅の湯』でした。

最初は一人で銭湯に通っていたんですが、この良さを友だちにも伝えたい!と、自分で銭湯ブログを始めました。書いた記事を友人に送って銭湯を布教し、さらに銭湯に行ったことのない友人を無理矢理連れて行ったりもしました。

おかげで、僕の友だちは全員銭湯に行くようになり、「今、〇〇にいるんだけど、この辺でオススメの銭湯ない?」なんて連絡が来るまでになりました。

 

――銭湯デビューは意外と最近なんですね!そして、サガラさん、まだ21歳!?

はい(笑)。まだ銭湯デビューしてから3年しか経っていないんです。
でも、お風呂は小さい時から大好きでした。小学生の頃は、休みの日には4時間くらいお風呂に入ってたんですよ。2リットルのペットボトルとハリーポッターのような分厚い本を持ち込んで。僕には自分の部屋がなかったので、お風呂が自分の部屋がわりでした。

当時、交代浴のことは全く知らなかったけど、洗い場と浴槽を行ったり来たりして、自然とやっていたんですよね(笑)。

 

――4時間も!?

だから僕のハリーポッターは湿気でふにゃふにゃになっています。
僕の故郷・福島県は、全国で四番目に温泉地が多いんです。母親は温泉で働いていたし、おじさんは10年かけて家に露天風呂を作ってしまうくらいお風呂好きな人で。……僕のお風呂好きは血筋だと思いますね(笑)。

 

――サガラさんは、銭湯の魅力ってなんだと思いますか?

それ、よく聞かれるんですけど…ただ「気持ちいい」からだと思うんですよね。銭湯にハマった理由をずっと考えてるんですけど、それを考えているのがいつも銭湯なので、それが答えかな。気づいたら行っちゃう場所というか。感覚的なものです。

 

――たしかに、その一言に尽きるものなのかもしれませんね。ご自身の銭湯ブログでは、どんなことを発信されていましたか?

外観、お風呂の深さなどの情報、僕の主観…って感じですかね。銭湯の経営者にインタビューすることもありました。当時は、開店前の大変さも知らなかったので、開店15分前に突撃したりしていました。今だったら絶対にしないですけど。

取材を通して見えてきたのは、銭湯経営者の「消極さ」でした。斜陽産業だと言われていることは知っていたけれど、「息子には継がせたくない」とまで言う方もいるのがなんだか残念で。その頃から、自分が銭湯経営をしたらもっと積極的に良さを伝えていけるのに、と思うようになりました。

 

――それが、銭湯の利用者から経営者へと転向するキッカケだったんでしょうか。

はい。銭湯を大好きな人が、銭湯を経営するべきだと思ったんですよね。

 

――好きな気持ちを経営にぶつけたいと思ったんですね。それから、銭湯経営に至るまでは?

まず、東京銭湯のライターになりました。すると、そのタイミングで今所属しているニコニコ温泉株式会社真神社長から、「うちを取材してほしい」と連絡を受けて。

それがきっかけで会いに行くと、社長は「銭湯を数字で語る人」だったんです。毎月、売上が前年比超えしていることも、数字を全部見せながらお話ししてくださいました。

初めて会うタイプの銭湯経営者に本気で感銘を受けて、その場で「働かせてください」とお願いしたんです。

 

――即断即決だったんですね。

それからあっという間に会社を辞めて、2018年の10月から昭島市の『富士見湯』でアルバイトすることが決まったんです。

会社に辞めると伝えたときは引き止められましたが、会社内でもすでに「銭湯好き」というポジションだったので、驚かれはしませんでした。

今でも前の会社の方々とは連絡をとっていて、『東京浴場』がオープンしたら遊びに行くねって応援してくれています。

 

銭湯を経営するということ

――実際に銭湯運営に関わるようになって、いかがですか?

右も左もわからない僕に、最初は社長が自らマンツーマンで経営塾をやってくれました。毎週時間をとってくれて……とても勉強になりましたし、ありがたかったですね。

設備周りは自分で触りながら覚えるしかなかったので苦労しました。仕組みを知らないし、もちろん取扱説明書があるわけでもありません。1年くらいかけて、ようやく身につきました。

銭湯って店舗によって設備がまったく違うんですよ。『富士見湯』は仕込みのときに裏で42度のお湯を作ってから浴槽に入れるんですが、『東京浴場』では予め水を張ってから、85度のお湯を足して42度を作るんです。最初は、42度のお湯を作るタンクはどこにあるんだろうと必死に探しました(笑)。

スイッチを一つずつ入れてみて、動きを確かめながら手探りで覚えました。今はやっと、8割5分くらい設備を理解できましたね。

 

――かなり大規模な工事を予定していると伺いました。

そうなんです。今は大工さんに直接自分たちのイメージを伝えて、作ってもらっている最中です。専門用語も多いですし大変な部分はありますが、設計事務所などを通していない分、自分たちの理想をダイレクトに表現できるのでたのしみですね。

 

――以前、オープニングスタッフを募集するツイートをされていましたが、反響大きかったみたいですね!

ありがたいことに、Twitterきっかけで20人もの方が応募してくれました。そこから一人を選ばないといけないのがツライですが、うれしい悲鳴でした。

 

――斜陽産業と言われている中で、それだけの人が興味を持ってくれているのは希望ですね。

 

「会話」が生まれる銭湯を

――さきほど、銭湯経営者へのインタビューでは「息子には継がせたくない」といった声もあったと伺いました。そんな銭湯業界を、どうしていきたいですか?

メディア露出も増えたし、若い人たちの活動で銭湯業界のネガティブさは和らいできていると思っています。それでもまだ、銭湯に行ったことがない人は多いですよね。

以前友人に、どうして銭湯に行かないのか聞いたことがあるんです。返ってきたのは「清潔感がないじゃない」という言葉でした。

銭湯自体は歴史のある建物が多いですが、レトロであっても浴場が不衛生な訳では決してありません。毎日これだけしっかり清掃をしていますよ、衛生管理もしてますよ、という発信を銭湯側からもしていきながら、悪いイメージを払拭したいですね。

銭湯に行ったことない人でも、いざ連れて行くと「来てよかったわ」と言ってくれるんです。だから、最初のハードルが高いだけなんです。できるだけそのハードルを下げられるような取り組みをしていきたいですね。

 

――今後のキャリアについて、考えていることがあれば教えてください。

いつかは必ず自分で銭湯を経営したいですね。今はその修行中。『東京浴場』の店長も1年くらいでポストをあけようと思っています。

銭湯を経営する場所にはこだわりがないですし、建物の質感や文化にも正直なところそれほど興味がありません。でも、銭湯の日常さが好きなんです。

スーパー銭湯にはない「手軽さ」が、銭湯にはあります。仕事帰りによったり、飲み会前にひと風呂浴びたりと、毎日のルーティーンの中に組み込むことができるのが銭湯の魅力だと思うので。

 

――最後に、これからの銭湯業界はどうなっていくと思いますか?

銭湯、とくに東京都内の銭湯には手厚い助成金があります。現状では水道代や固定資産税の負担が軽減されているのですが、それもいつまで続くかわからないですよね。

助成金がなくなった時にも、しっかり経営を続けていけるだけの経営努力を、今のうちからしていくべきだと思っています。

今が銭湯業界全体の頑張りどき。そのために、掃除のやり方や、協力してくれる業者さんの情報などを共有する仕組みづくりもしていきたいですね。

 

『東京浴場』、2020年4月オープン!(予定)

3年前に初めて銭湯と出会ったとは思えないほどの、銭湯愛と経営者魂を見せてくれたサガラさん。彼がオープンに向けて奔走している様子は、『東京浴場』Twitterからも覗くことができる。

『東京浴場』は2020年4月オープン予定!どんな賑わいを見せてくれるのか、今から楽しみだ。

 

住所:〒142-0062 品川区小山6-7-2

アクセス:東急目黒線「西小山駅」から徒歩1分

お問い合わせ:ニコニコ温泉株式会社 :http://nikonikoonsen.com

AUTHOR

中﨑史菜
  • FACEBOOKでも記事をお届け!
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう

RECOMMEND

ARCHIVE

RANKING

PAGE TOP