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銭湯、お風呂に関する執筆コラムを掲載。

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【レポート】銭湯の記憶を紐解く、町田忍の「ジオラマで見る、昭和・江戸銭湯展」

〒152-0034 東京都目黒区緑が丘2丁目7−13

ジオラマからたどる、銭湯にまつわる“いまとむかし”

自由が丘から徒歩約7分の『みどり湯』。
すぐ隣に併設されている展示スペース「gallery yururi」で、
庶民文化研究所所長の町田忍さん(山本高樹さん・合作)が制作したジオラマが展示されているとのことで、のぞいてきました。

展示概要の記事はこちら
「町田忍のジオラマで見る、昭和・江戸銭湯展」みどり湯 gallery yururiにて開催【2019年7月26日(金)〜31日(水)】

 

「銭湯検定」の監修や、『ザ・東京銭湯』『銭湯遺産』など、銭湯に関わる著作や写真集を数多く出版されている町田さん。
十数年前から山本さんと共に製作を始められたというジオラマは、細部にわたるまで圧倒的な完成度を誇っています。
残された資料を手がかりとしながら、精緻な縮尺スケールで再現した作品を、
最初期の作品から最新のものを含む合計5点展示していました。

 

自然光が注ぎ込むギャラリー内は明るさを落としてあり、作品はLEDを使ってライトアップ。
細部が分かるように張り巡らされた照明が、しっかりと当時の意匠を再現するようあしらわれています。

 

愛してやまない、昭和の「ザ・銭湯」のおもむき

今回、メインとなる中央に吸えられているのが、町田さんと山本さんの最初の作品である『明神湯』のジオラマ。

 

東京都大田区南雪谷にある都内屈指のレトロ銭湯は、
戦後に広まった昭和銭湯の特徴ともいえる千鳥唐破風の門構えを有しており、
町田さんいわく「すべてが凝縮された銭湯」だといいます。

 

おなじみの番台付き入口をくぐれば、格子のあしらいが印象的な吊り天井を備える脱衣場。
青が印象的な内装とペンキ絵、そして奥に据えられた浴槽というこの構図、まさに銭湯の代表的な「風景」ですよね!

 

こちらの明神湯では、立派な枯山水の庭を備えているのが特徴。
ボイラー室では薪をくべる姿が見られたり、バックヤードの1コマが見られたりだとか。
360°どこを見ても、すべてがおもしろい銭湯なのです。

 

ジオラマ製作に使われているのはプラ板、樹脂、枯木、バルサ材といった素材。
これらを適材適所に配しながら、丁寧な彩色を施しているとのこと。
1つずつ制作している人形は、粘土を使用。味のある、豊かな表情にも注目して鑑賞すると飽きないほど楽しいです。

 

ちょっぴり憧れる江戸の銭湯に、原点を学ぶ

時代はさかのぼり、江戸の銭湯として紹介されているのがこちらの『松乃湯』。

ちょうちんが道行く人を引きつける木造の建物ですが、その特徴はなんと言っても“2階建て”であること
1階は浴室をそなえたメインのフロア、2階は休憩室のあるフロアです。
今でいうなら、地方温泉にある広めの共同浴場、あるいはコンパクトなスーパー銭湯、といった面持ちでしょうか。

 

まずは、1階。
湯船は今と違ってやや狭めになっており、水が貴重な時代であることがうかがい知れます。
シャワーやカランといった設備はもちろんなく、身体や髪を洗うスペースとして前室が使われていることが分かります。
そしてお気づきかもしれませんが、ここは混浴のよう。

 

でもこんな安らぎの顔だけは、いまもむかしも変わりません。あったかい光景だな〜。

 

今はもう見かけなくなってしまった「三助」(背中流し)がいる光景も。
決して当時を知っているわけではないけれど、
なんとなく銭湯好きにとっては、その所作に、思いを馳せることができます。

 

変わって2階はゆったりとくつろげる畳のスペース
お茶なんかを飲んでいる団らんの風景が微笑ましい! そしてくつろぎすぎ!(笑)
こうして見ると調度品の造りなども本当に細かいんですよね……。

 

いまもむかしも、銭湯はコミュニティスペースであると同時に、機能的な側面も持ち合わせています。
個室なんかをこっそりのぞいてみると、男女が何やらロマンチックな雰囲気。
その昔、三助同様に「湯女」という女性の働き人がいたんだそう。
詳しくはぜひ調べてみてほしいのですが、“都市”を感じさせる江戸時代の風習・風俗についても触れることができました。

 

銭湯の姿は変わっても、入浴文化の本質は変わらない

取材当時、奇跡的に会場でそろわれたお三方。町田忍さん(中央)、合作でジオラマを制作された山本高樹さん(右)、展示用アクリルケースを手掛けられた鷺ノ谷慎一さん(左)。仲睦まじい3人組によって、今回の展示は作り上げられています。

 

今回の展示にあたって組み上げられたジオラマの凄さとは、まずなによりも緻密であること
会場には当時を思い起こさせる民俗資料、
そしてそれらを元に組み立て上げられたレイアウトのラフスケッチなどが展示されていましたが、
細部にわたるこだわりというのは徹底したものがあります。
調度品はもちろん、壁に貼られている広告、あるいは街頭看板にいたるまでしっかりと再現。
参考資料は必ずしも充実しているわけではないので、それらを一から組み立てるという作業の苦労は計り知れません。

 

次に資料的な価値が高いこと
たとえば、西洋風の外観がひときわユニークでレトロな大阪市生野区の『源ヶ橋温泉』(現在休業中)。
通称「オパール風呂」と呼ばれる浴槽を備えた、登録有形文化財に指定されている銭湯です。
こうした特徴ある銭湯を、そっくりそのまま鑑賞できるということが当たり前なのですが、すごいのです。

 

そして、ストーリーが感じられるということ
きっと写真あるいは絵で残すということも1つの手段でしょうが、細かな意匠や風情といったものは、1枚では感じ取れません。
銭湯を「舞台」としたストーリーを、さまざまな要素でさまざまな視点から眺めることができるのが素晴らしいのだと思います。
どんなジャンルにも言えることですが、時代の移り変わりによって現実的な問題に直面するもの。
「〜令和に引き継ぐ銭湯文化〜」と付けられたサブタイトルには、
変わってきたもののありのままを残したいという、町田さんのそんな思いも込められているのではないでしょうか。

 

全体をぐるぐると回っていると、時代そのものだけではなく、
銭湯の有り様についても驚かされたりします
例えば、江戸期には屋形船の移動式銭湯があったそう。その名も『湯船』。
ここに語源がつながっているんだという気づきがあったりだとか。
どこか日常を離れた空間では、今とは違った入浴の感覚を味わえたことでしょう。
「モバイル銭湯」の元祖といったところでしょうか。アイデアってすごいな〜。

 

こちらは東京・目黒区にある町田さんの生家。
「行水」という身体洗いの入浴ですが、お家のお風呂といったら、こんな素朴な記憶が染み付いている方がいるかもしれません。
ぼくで言ったら、おばあちゃん家の離れのお風呂。ひぐらしが鳴く夕べ、ボイラーにせっせと薪をくべた思い出…。
入浴が生活に切り離せないからこそ、リアリティーを持って浮かび上がるものがあります

 

銭湯の有り方は時代とともに変わり、またその楽しみ方も人それぞれ。
しかし、湯上がりの光景は、変わっていないものの1つなのかなと気付かされます。
銭湯が私たちと密接な「文化」を引き継いできたからこそ、
そこには誰しもが懐かしさを共有できるような、みんなの記憶が染み込んでいるのだと感じられました。

AUTHOR

さく

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