しまなみに佇む、店主によって設計されたレトロ銭湯
『寿湯』は広島県尾道市の離島、因島に位置しています。尾道市及び因島は造船の町として栄え、近年では「しまなみ海道」として多くのサイクリストがこの地を訪れています。『寿湯』は1938年(昭和13年)より営まれている老舗の銭湯です。
店主の民江さんは、旦那さんの昭夫さんが他界してから、ひとりでこの銭湯を切り盛りされています。民江さんは「雨の日も嵐の日も何があっても湯を沸かす。そして定休日の日曜だけしっかり休む!」との意気込みを聞かせてくれました。
玄関門でお客さんを迎える立派な松は、1938年(昭和13年)に植えられたもの。
昔ながらの井戸水、薪沸かしの防災銭湯
『寿湯』は昔ながらの井戸水、薪沸かしの銭湯。建物の外には燃料となる薪が並べられています。昨年の「西日本豪雨」では、断水で苦しむ近隣の住民に無料開放し、島内外から2日間で570人もの人々を受け入れました。近代的なインフラに頼りきらない寿湯は、銭湯本来が持つ防災機能をここぞというところで発揮したのです。
哀愁漂うレトロ銭湯
お客さんは地元の方が多く、造船所の方や会社員、漁師など様々。
脱衣場にはヘアードライヤー、マッサージチェア、木製の脱衣棚など、そこかしこにレトロな要素が感じられます。
浴室は大きな浴槽が一つのとてもシンプルな設えです。薪で沸かされた湯ならではの柔らかな湯がお客さんを癒してくれます。
浴室の壁面には渋いタイル絵が飾られています。
旦那さんからの贈り物
この銭湯の最大の驚きは、昭和50年代に行われた『寿湯』の浴室及び設備の改装設計を行ったのが、旦那さんの昭夫さんであることです。昭夫さんは造船の設計技師として働いていた経験を活かし、丹精込めて『寿湯』を設計。浴槽、釜、貯水タンクに至るまで詳細に描かれた当時の手書き図面は、民江さんによって今でも大切に保管されています。
浴槽も設備もしっかりと現役で稼働しており、きっと自分が亡くなっても民江さんが困らないように頑丈に設計されたのではないでしょうか。『寿湯』は今でも夫婦によって営業されている、そんなことを感じました。
銭湯あれば、そこに人生あり。
部長 池谷達也。
INSTAGRAM建築士、絵描き。
夢は銭湯の設計。