商店街のど真ん中にだって温泉はある! 地元で大人気の美肌の湯
JR中央線・中野といえば、現在大学や企業が集積する新都市として生まれ変わっている街。商店街を中心に多くの商店や飲食店が立ち並び、今も昔も多くの人が集まっている場所です。今回はそんな街のにぎわいを横目に、『中野寿湯温泉』にお邪魔しました。
JR中野駅北口を出て商店街を抜けながら、ランドマークの1つでもある中野ブロードウェイを抜けた先の早稲田通りを渡ります。さらに新井薬師方面へと続く商店街を入ると、左手に『中野寿湯温泉』が見えてきます。オレンジ色の壁と、天然温泉と称した明るい外観が目を引きます。スタイリッシュな外装ではありますが、これがれっきとした銭湯なんです。
路地を入って裏手に回るとしっかり煙突も見えます。銭湯に通い慣れた方であれば、この方向から来ると「あっ、銭湯だ」とビビットくるかも。
お肌にやさしい温泉で、銭湯ライフに特別な温もりをくれる
清掃が行き届いており明るい内装。カランは4列、立ちシャワーも2つ備えています。等間隔にボディソープとリンスインシャンプーが置かれていて、手ぶらでも大丈夫。おなじみのペンキ絵は見られませんが、青いタイル壁がなかなかおしゃれな雰囲気。タイルの中に船が浮かんでいたり、魚が泳いでいたりするの、わかりますか? かわいい……。
なんといっても、この銭湯の目玉となっているのが、メタケイ酸を豊富に含んでいるという温泉。もともと井戸水を使用したお風呂でしたが、同じ源泉に温泉が含まれているということがわかり、そのままお風呂に採用。源泉は26、7℃ですが、肌に馴染みやすい温度に加熱することで調整している。「美肌の湯」というだけあり、湯ざわりが極めて優しいのが特徴です。
メタケイ酸というと保湿効果を多く含み、全国でも多くの美肌温泉が特徴とする成分を含むお風呂。都内の銭湯でこのキーワードを打ち出しているところは多くないかもしれません。
左から、立って浸かれる深めの浴槽、座風呂、寝風呂、肩まで浸かれる浅めの浴槽と続く。好きなスタイルで、また順序を変えながら思う存分楽しめるのがうれしいですね。
お湯は無色透明。お湯の温度は42〜3℃で、心地よく温まれる温度になっています。湯上がりも保温続いて、すべすべに!
地域のシンボル的な人気銭湯=温泉として、多くのファンがいます
取材当日、銭湯を案内してくれたのは2代目の小林照夫さん(72歳)。この銭湯のストーリーをまじえながら解説くださいました。
照夫さんのお父さまである先代が1951年(昭和26年)に開業した『寿湯』。ここが温泉として東京都から認可が下りたのが2012年(平成24年)で、そこから『中野寿湯温泉』と名称を変えて新たにオープンしたとのこと。外観も新たに、商店街の中に鎮座する街の銭湯としてにぎわいを見せています。
男女比としてはそれぞれ7:3くらいの比率。「昔はお年寄りの方ばっかりだったけど、若い人が増えてきたのが最近変わってきたところだね。うちは遅くまでやっているから、その時間までよく来てくれるよ」と照夫さんは笑顔を見せてくれました。外国人の方もたびたび寄ってくれるというのも、国際色豊かな中野ならではでしょうか。近ごろは若いカップルで来るという人も多いらしいんです。
温泉の他にもサウナがこだわりです。他の銭湯に比べて、サウナ料金が200円と安いのが特徴(もちろんタオル付き!)。通常300円、多いところだと500円くらいが相場になるので、気軽に入れてしまうってだけで本当にありがたいんですよね。上段と下段を合わせて6人くらいが腰掛けられる空間はいつもにぎわっているそうです。
「特に男湯のサウナは人気で、いつも待っている人がいるね」と照夫さん。扉は番台でもらう取っ手を使って開ける方式。サウナの温度はおおよそ夏場だと90℃くらい。寒い時期になると100℃近くに調節してお客さんを迎えているのだそうです。小窓からは浴室の風景が見れますよ。
上段に座らせてもらいました。ほのかに香る木の香りでリラックスできる空間。暖色系の照明の雰囲気もいい感じ〜。5分砂時計が両サイドに掛けられています。サウナ室の入り口付近には小さな「第7の席」が!(笑) その盛況さがうかがえますね。
もちろん水風呂も完備。これも井戸水をしっかり使っているから、肌ざわりがまろやかで、さっぱりとしています。温度は22℃前後。お年寄りやお子さんも、長めに使っていられる温度だと思います。
銭湯なのだから、皆さんにくつろいでもらえる空間でありたい
現在の内装は、およそ8年ほど前に中普請したものだそう。最近は、全面リニューアルを経て一気に「近代化」を果たす銭湯も出てきていますが、そうした全面改修を行う場合にはビル型の設計になることが多いため、実は昔ならではの高い天井も低く抑えられてしまうことが多いのだとか。湯船に使って天井を見上げたときの開放感、脱衣所の広い空間で余韻に浸っているときの包容感、あの高さや広さといった要素も、実は「銭湯」という空間の中で大事にされてきたものであり、共有されてきた文化なのだろうと思うのです。
そういった意味で脱衣所の広い空間も心地よく、脱衣箱は十分に確保されてあります。ドライヤーは20円。他に体重計やぶら下がり棒などがあります。たとえ混雑していたとしても気にならない動線が確保されており、居心地の良さにつながっています。小さな中庭で外気浴も楽しめます。
そして、照夫さんこだわりの1つにもなっているのが休憩室の広さ。建物自体は『寿湯』時代の基礎を生かしつつ、定期的に内装リフォームしながら開店を続けているそうなのですが、「湯上がりにゆったりくつろいでもらえるように」とした方針だけは変わっていません。
置いてあるマンガの種類も豊富で、コーヒー牛乳をいただきながらゆっくりと滞在できる空間。まるで家かなと思うくらいの気の張らない感じが素敵です。マッサージチェアや血圧計など健康セットの他、窓側の鑑賞ケースではカメが飼われているのも面白いです。
テレビを見ながらくつろいだり、ビールを楽しむこともできますよ。ついつい長居してしまいそうな空間。
けれど、これだけゆったりとしたレイアウトになっているということは、掃除だって同じくらい大変だということ。スタッフは小林夫妻を含め、2人のバイトさんが交代であたっているのだそうです。その苦労にも頭が下がります。
「よくお客さんに言われるのは、『いつ来ても清潔だね』という言葉。うちは特別な“おしゃれ”をしているわけではないけれど、ただきれいにしてお客さんを迎えることが大事だと思っています」と照夫さんは謙遜しながらも語ってくれました。
立地としてはすでに十分便利な場所にありますが、わざわざバスに乗ってきてくれるお客さんもいたり、中には隣の練馬区から毎日来てくれる人もいるのだそう。「帰るときに『いいお風呂だったね』と言ってもらえることが風呂屋として何よりの誇り」と語る照夫さん。回転直後から、雨にもかかわらず多くの人が自慢のお風呂を楽しんでいました。中野の名湯は、今もなおファンを増やし続けているようです。
趣味は古着収集と飲酒。サウナ付き銭湯で心身を整えています。ライフワークとして風景やスナップを撮影。
XINSTAGRAM