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銭湯、お風呂に関する執筆コラムを掲載。

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20代女性の新番頭の下、リニューアルされた和歌山市『幸福湯』。幅広い世代に愛される銭湯を目指して

〒640-8103 和歌山県和歌山市北休賀町31 幸福マンション 1F

20代女性番頭の下、リニューアルオープン


和歌山県和歌山市にある『幸福湯』。1956年に創業された同銭湯の「4代目番頭」を務めるのは、今年27歳になる中本有香さん。昨年11月から行った店内の改装を経て、今年4月25日に待望のリニューアルオープンを迎えました。27歳という若さで店を引き継ぐに至った経緯、番頭としての意気込みを伺いました。

 

最初は「私が継ぐ」とは思いもしなかった

中本さんの曾祖父が創業し、家族で切り盛りしてきた『幸福湯』は、中本さんにとっても身近な存在でした。初めて番台に上がったのは小学生のとき。中学生、高校生時代は、学校帰りに制服姿のままお店に立つこともありました。
幼少期から慣れ親しんだ銭湯の記憶から、自然な流れで店を引き継いだ……。そう想像を浮かべましたが、「自分が店を継ぐとは思っていなかった」と中本さんは回想します。

「小さいころからお店に行っていて、銭湯はすごく好きでした。番台にも立たせてもらって、お客さんと話をするのも楽しかった。でも、『将来自分がお店を継ぐ!』と思ったことはなかったんです。今思うと、自分にとって近い存在であり過ぎたのかもしれません」

大学卒業後は、在学中に取得した保育士免許を生かそうと教育関係の一般企業に就職。希望を胸いっぱいに社会人生活をスタートさせましたが、会社の方針と自分自身が抱く教育への思いとのギャップから退職。勤務地である大阪から、和歌山に帰郷します。

地元に戻り、再び働き始めますが、今度は就職先が倒産。思わぬ苦難の連続に、中本さん自身も「『職業運』みたいなものに恵まれてないのかなあ……と思いました」と肩を落とすしかありませんでした。

 

職を転々とするなか、「天職」が身近にあると気づいた

次の仕事を探しはじめたタイミングで、父親から『幸福湯』の廃業も視野に入れていると聞かされます。

「一部の床が抜けそうになっていたり、店舗の老朽化がかなり進んでいる状況でした。他にも直した方がいい場所いくつかありましたが、『継ぐ人もいないし、このままの状態でいけるとこまで……』と父が話していて」

身近にあることが当たり前だった『幸福湯』。その存在がなくなる可能性を知り、中本さんのなかに大きな悲しみが芽生えたと言います。

父から話を聞いてから数日が経ったころ、友人とともに訪ねた飲食店での会話が中本さんの決断を後押しします。

「友達と一緒に行きつけのカフェバーに行ったときに、『実家の銭湯がなくなるかもしれない』という話をしました。その時、いつも話をさせてもらう、そのお店の常連さんたちから『それは寂しいね。お風呂を残してほしいけどなあ』という言葉をもらって、『なくしたくない』と強く思うようになったんです」

転職を重ねたことで、「自分のやりたいことは何か」を深く考えるようにもなったと話す中本さん。今いちど自分の気持ちを見つめなおしたとき、ある気づきを得ます。

「自分は『色んな世代が集まる場所』が好きなんだと気づきました。自分の性格もあると思うんですが、同性や同世代だけの空間に長くいると疲れてしまうところもあって……(苦笑)。子どもからお年寄りまで色んな人が集まって、交流してくれる場所で働きたい。そう思ったとき、自分の身近にあった『銭湯』がそういう場所だと気づけたんです」

『幸福湯』を継ぐ意思を娘から伝えられた中本さんの父親は、驚き、「簡単なものではない」と反対もしたとか。しかし、最終的には中本さんの熱意が勝りました。
営業を一旦停止し、店内の大改装に着手。その改装の内容にも中本さんの細やかな「気づかい」が散りばめられていました。

 

「4」がないロッカーと使い切りシャンプーの販売

改装された店内からは溢れんばかりの清潔感が感じられます。それだけでなく、いたるところに中本さんの心配りが散りばめられています。
まずひとつめが脱衣所のロッカー。縁起を担いで「4」の番号を避けることはよくありますが、『幸福湯』には14、24など4がつく他の数字や、40番台のロッカーが一切ありません。これについて中本さんに尋ねると、こんな回答が返ってきました。

 

39のあとは一気に「50」に

「『4番はいやや』と使いたがらない方も少なくないので、それならなくそうと思って、改装の際に業者さんにお願いしたんです。使わないロッカーが増えてしまうともったいないし、お客さんも気を遣わなくてよくなるので」

番台から脱衣所に進む道中、飲み物が冷やされている冷蔵庫の横に、たくさんの種類のシャンプーやコンディショナーが並べられています。色とりどりのボトルの傍らには、手のひらサイズのコンパクトなケースが。

 

「シャンプーやコンディショナーを1回分の使い切りで販売しています。『持ってくるのを忘れてしまったけど、新しいものを1本買うのは……』となることもあると思うので、こういった形をとっています」

 

その他にも、入浴上の注意や脱衣所でのマナーの説明文も掲載されている。中本さんが「好きな絵柄なんです」と語る、「鳥獣戯画」風のフリー素材を活用し、注意喚起しながらも柔らかい雰囲気に仕上がっているのも特徴です。

「若いお客さんのなかには『銭湯に興味はあるけど、マナーとかがよくわからなくて……』と気が引けてしまう方もいると思います。そういった方にも気軽に来てもらいたいですし、常連さんたちと新しいお客さんが一緒の空間で楽しんでもらえたらと思って作らせてもらいました」

 

中本さんお手製の銭湯マニュアル。常連、新規のお客さんどちらにも楽しんでほしいという思いが溢れている。

 

「番頭」として目指すもの

 

4代目番頭として多忙な日々を過ごす中本さん。その毎日のなかで、意識していること、番頭としての目標を最後に伺いました。

「番頭としての目標……。うーん、難しいですね(笑)。強く思っているのが、『お客さんの目に見えない部分の仕事が大切なんじゃないか』ということです。もちろん番台に立ってお客さんと話すのも大切だし、すごく楽しい。でも閉店後の浴場の清掃であったり、直接お客さんと関わる以外の仕事もすごく重要なんです。誰が来ても気持ちよく使ってもらえて、『また来よう』と思ってもらえるように、細かい部分、見えない部分もしっかりやっていきたいです」

中本さんは、幸福湯を「幅広い世代が集まって、交流できる場にしていきたい」とも語ります。紆余曲折を経て再び辿りついた「馴染みの場」で、これからも彼女は奮闘していきます。

AUTHOR

井上幸太

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リニューアル和歌山幸福湯
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