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銭湯小説「メゾン刻の湯」2/9 発売記念!作家 小野美由紀さんインタビュー

こんにちは。ライターのn.yusuke。です。
小野美由紀さんの東京の下町の銭湯を舞台にした青春小説が2018年2月9日(金)にポプラ社より発売されました。

 

【 内容紹介 】

どうしても就職活動をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。住むところも危うくなりかけたところを、東京の下町にある築100年の銭湯「刻(とき)の湯」に住もうと幼馴染の蝶子に誘われる。そこにはマヒコに負けず劣らず”正しい社会”からはみ出した、くせものばかりがいて――。

「生きていてもいいのだろうか」「この社会に自分の居場所があるのか」

そんな寄る辺なさを抱きながらも、真摯に生きる人々を描く、確かな希望に満ちた傑作青春小説!

発売を記念して小野さんからこの小説について、じっくりとお話を聞いてきました!

銭湯を舞台にした傑作青春小説「メゾン刻の湯」についての概要は、こちらの記事もご参照ください。

 

あの銭湯や、あの出会いがこの小説の舞台やモデルに……

小野さんはフリーライターに成り立ての頃、代々木八幡で家賃4.5万円の風呂無しアパートに住んでいたそうです。体調を崩して会社を辞めた後なので仕事もお金も無く、人と接する機会がほとんど無い生活をする中で、近所にある『八幡湯』へ毎日通っていた時間だけが、”社会と繋がっている”と感じられたようです。

小野さん:
「他人だけどお年寄りも子どももいて、どんな生活の人も皆等しく裸になる場所はまさに”アジール(聖域・避難場所)”だと思いました。人と接する機会がないと、どんどんマイナス思考ばかりが膨らんでゆきますが、どんな頭でっかちになっていたとしても、お湯に入って身体がほぐれれば、こころも自然とほぐれて、前向きな気持ちになれます。

銭湯に救われた……”そんな小野さんにとって、とっても思い入れのある『八幡湯』はもちろん、文京区に住んでいた頃に『菊水湯』『月の湯』が立て続けに廃業したことや、銭湯の保存活動を行う文教建築会ユースの取り組みを間近でみていた経験からも、物語の舞台としての銭湯に魅力を感じたと言います。

 

”かけ湯をして、湯船に身を沈める。想像していたよりもあっさりとした湯あたりの柔らかな湯が体を包み、僕はあまりの心地よさに思わず深いため息を漏らした。骨という骨の隙間が開き、そこに温もりが潜り込んでくる。ーーこんな風に何も考えずに天井を眺めるなんて、一体いつぶりだろうか。こうしているだけで、ふっと、胸の奥に凝っていた、固い何かが溶け落ちて行く気がする。(本文より)”

 

伝えたいことは、現代社会における”寛容”と”多様性”について

そもそもこの小説を書こうと思ったきっかけは、2016年の6月に相模原の障害者福祉施設殺傷事件のニュースを見て、「加害者も含め、マイノリティや弱者と呼ばれる人たちがどうしたら社会から排除されずにどう生きられるのか」に関心を持ったことだそうです。

小野さん:
「障害者の施設というのは、多くの場合閉鎖的になりがちです。
この相模原の福祉施設は、障害者と街の人たちとが関わりながら暮らせるように、比較的オープンな設計がなされていたそうですが、あの事件以来、全国の施設で ”セキュリティのためにはもっとクローズにした方が良いのではないか” という議論が起きました。

現代社会には、弱者やマイノリティが社会と隔離される風潮があります。
銭湯は街のターミナルで、地域のコミュニティとの根強いつながりがあります。

マヒコたちは地域と無縁の突然現れた居候ですが、”社会からの落ちこぼれ”である彼らが地域の人々と関わる中で、他者性に触れ、嫌が応にも社会に向かって開かれてゆく様子を書きたかったのです。」

”不思議だった。こうして人生が続いていることが。肩書きのないまま大学を卒業した僕の人生はこれで終わりだと思っていた。しかし実際に生活は続き、他人の気配に救われている。

 これまで自分が「社会」だと思っていたものは、黒いスーツの群れがつくる強固な世界だった。しかし、ここでこうして皺だらけの肉体に囲まれながら暮らしていると、僕の中にもう一つの「社会」の姿が立ち上がってくる。(本文より)”

 

また、小野さん自身もシェアハウスに住んでいたそうなのですが、当時のシェアメイトがSNSで大炎上をしてしまい、自宅にマスコミが押しかけてきたり、彼に対するデタラメな誹謗中傷がネット上で飛び交っていたのを目の当たりにしたり……といった経験をしたそう。

そうしたことからも、社会の不寛容さや、損得だけではない本当のつながりとは何かということについて考えさせられ、それが今回の小説のテーマと結びついたと言います。

この小説の主人公「湊マヒコ」は、就職活動に失敗し落ちこぼれた ”同世代にとっての負け犬” として登場します。成り行きで暮らすことになった「刻の湯」での共同生活や、そこで出会う人たちとの交流、事件などを通し、彼は人間としてたくましく成長していきます。

 

“「それよりお前、なんでこんなところにいるんだよ。今の時期、研修とかいろいろあるんじゃないのか。ええっと、お前の内定先の」

「ホムラショーケンね」蝶子はそう言うと、タバコをパーカーのポケットから取り出して目にも留まらぬ速さで火をつけた。

「昨日内定辞退したんだ」

「えーっ、あの、内定辞退した学生を灰皿で殴るっていうホムラショーケン!……蝶子、怒られたんじゃないの?」

「大丈夫よ、あたし、人事部長と寝てるもの」そう言って彼女ははぁ、と白い煙を吐く。「ああだこうだ言うなら、御社の社員にハラスメントされましたってSNSでバラまくけどどうする、って脅したら、あっさり」(本文より)”

 

小野さん:
「私自身、就職に失敗して、内定のないまま大学を卒業しました。社会から見れば”落ちこぼれ”です。その時に『一緒に住まないか』と声をかけてくれた仲間と作ったシェアハウスが、私にとってある種の”逃げ場”であり、家族以外に初めて触れた”共同体”でした。

全く異なる価値観の人々が共に暮らすわけですから、喧嘩もするし、お互いに言えない秘密なんかもある。お客さんも来る。シェアハウスのウチとソトの曖昧な様子と、銭湯という場のオープンな性質が結びついて、今回、多様なバックグラウンドを持つ人々が ”避難所” 的に集まっている ”銭湯シェアハウス” というモチーフを思いつきました。」

「メゾン刻の湯」には、事故により片足を失った美容師の青年・龍くん、マレーシアと日本のハーフの美女・蝶子、親に銭湯に置き去りにされた10歳の少年・リョータ、銭湯経営を引退した老人・戸塚さんなど、多様なメンバーが登場します。

小野さん:
「さっきの発言と矛盾するかもしれませんが、人物設定は『テーマを伝えたいから!』という意気込みからではなく、なんとなく住人が7人いたら、ハーフ1人、障害者1人くらいいるだろ、と。

その辺はすごく自然に思い浮かびました。
だって実際の社会にだって、それぐらいの割合で俗に『マイノリティ』と呼ばれる人々はいるでしょう。
例えばLGBT(性的少数派)と呼ばれる人々の社会の中での割合は7.6%。
多数派か少数派かを問うこと自体がナンセンスなくらい、多様な社会に私たちは生きている。
それを自然に書きたかったんです。そう思うにいたったのには、これまで暮らしたシェアハウスでの経験が生きていると思います。」

 

“「老人なんか、多すぎて財政を圧迫しているんだから、ごっそり死ねばいいのに。どうせ役に立たないんだからさ」彼のこうしたもの言いは、インターネットかどこかで目にしたことのあるありがちなフレーズで常に構成されており、決してそれが彼の本心からではないような気もしたが、しかしなんだか今回に限っては、僕はぎくりとした。まるで僕自身が死ねと言われているような気がしたからだ。--社会にとって、役に立たない人間は死ぬべきだろうか。人間生きてるかぎり、役に立たなくちゃ、だめか。(本文より)”

 

『喜楽湯』で実際に働いた経験が、小説の随所に活かされている。

小野さんはこの小説を書くにあたり、「まずは実際に働いてみよう!」と「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」が経営する『喜楽湯』で2日間のインターンをされたそうです。その他、鶴見にある『清水湯』の高橋正臣さんや、北区田端の『梅の湯』店主の栗田尚史さんからお話を伺い、小説の舞台である築100年の銭湯「刻の湯」のディティールを作り込んでいったのだとか。

小野さん:
「働いてみて、一番に思ったのは、こんなにも細かい仕事がたくさんあるんだ!ということ。カランやシャワーの部品に詰まった汚れやサビをひとつひとつ掃除をしたり、薪を割ったり、重い肉体労働ばかり。1日終わった頃にはヘトヘトでした。現在全国では1日に1軒くらいのスピードで銭湯が閉店していると聞きますが、確かに、経営者が高齢化したら、銭湯を存続させるのは大変だろうな、と実感しました。」

この経験から、『喜楽湯』に関わる実在の人物が登場人物のモデルになっていたり、『喜楽湯』の内部を彷彿とさせるシーンも登場します。

 

『喜楽湯』看板猫の「タタミ」も物語に登場。

 

『喜楽湯』番頭でお笑い芸人を目指す湊くんは、主人公の名前「湊マヒコ」のヒントに。

 

小野さんは『梅の湯』のオーナー栗田さんから、「刻の湯」を実質的に経営する謎の青年アキラのキャラクターをイメージしたそう。このアキラという人物は、物語の中でもキーとなる人物で、終盤になるに連れて展開に深く関わってゆきます。

小野さん:
「登場人物たちは、様々な側面から生きるのに困難を抱えた若者たち。それは私自身の一部でもあるし、今まで出会った人たちや、社会性なモチーフの”キメラ(合体したもの)”>だと思います。」

一読すると、全て架空の物語のようにも思えますが、実は随所に小野さんの実体験や、実在する人物からエッセンスが抽出されていて、そこがこの物語の不思議なリアリティに繋がっているのでは、と思いました。
 

銭湯が好きな人にこそ、一番読んで欲しい小説です。

2月9日発売の「メゾン刻の湯」ですが、都内の銭湯の店頭で販売するなど、銭湯好きの手に届く販売の工夫をされる予定だそうです。

 

小野さん:
「『喜楽湯』さんや『梅の湯』さん、その他、高円寺の『小杉湯』さんなど、若い番台さんの頑張っていらっしゃる銭湯を中心に販売していただけないか呼びかけているところです。その他、現在販売してもらえる銭湯を探しているので、これを読んで『うちで販売していいよ』という銭湯さんはぜひお声がけいただきたいです!今なら、全本サイン入り・手渡しでお届けいたしますので……」

小野さんは自身が感じられている銭湯文化への”萌え”をこの小説に詰め込んだそうです。

小野さん:
古い銭湯の建物を観察するのが大好きで。『あ、この銭湯の懸魚 (げぎょ)(※三角形の屋根の下にぶら下がっている装飾板のこと。古い銭湯に多く見られる)はこういう形なんだな』とか『あ、ここは千鳥破風屋根(※屋根の形の一種)なんだな』とか、初めて銭湯を訪れるたびに思ってる。タイルが六角タイルだったり、傘立てがあったり、格天井が立派だったりすると素敵ですよねぇ……。古い銭湯は、まさに文化遺産だと思います。

そうした”銭湯萌え”的な要素をこれでもかとちりばめたので、小説ファンだけじゃなく、銭湯が好きな人にもぜひ読んで欲しい。読み終わった後に、ご自身の好きな銭湯への愛着がより強まってくれたら嬉しいです。」
 

あの著名人からもこの小説への応援メッセージが届いています!

 
水曜日のカンパネラ コムアイさん

「お湯は人を芯からほぐす。出来損ないでもいいんだって教えてくれる。」

久住昌之さん(「孤独のグルメ」「昼のセント酒」):

「面白くて、お昼を食べるのも忘れて一気に読み切った。銭湯は町の良心だ。残さないと、みんなバチが当たる。」

 

 
銭湯好きの皆さん、ぜひ「メゾン刻の湯」を読んでみてください!

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AUTHOR

n.yusuke。

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インタビューメゾン刻の湯小説小野美由紀
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