「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」でこれまで紹介してきました、「風呂なし物件&銭湯内見ツアー」による銭湯のあるくらし。
そしてなにやら、高円寺駅の小杉湯……の隣のアパートでも、面白いことをしている団体がいるらしい……? その名も“銭湯ぐらし”。一体、彼らは何者なのか、銭湯の隣で何をしているのか、実際におじゃまして聞いて来ました。
「湯パート」で、銭湯のあるくらし。
JR高円寺駅から徒歩5分に位置する『小杉湯』さん。
『小杉湯』の隣には、1軒の風呂なしアパートが建っています。
このアパートは2018年2月に解体が予定されていて、それまでの期間限定で多彩な仲間が一つ屋根の下で暮らすことになったそう。その銭湯つきアパートの名は、「湯パート」。この「湯パート」には、ミュージシャン、建築家、編集者、イラストレーター、デザイナー、アートディレクター、主婦など、職種も性格も全く違う人たちが銭湯のあるくらし“銭湯ぐらし”をされています。
住人たちの共通点は、『小杉湯』のファンということ。
今回は、“銭湯ぐらし”発起人である『小杉湯』3代目 平松佑介さん、建築家 加藤優一さん、イラストレーター 塩谷歩波さん、コミュニティビルダー 柴田大輔さん、計4人のお話を伺うことにしました。
「湯パート」(イラスト右下)にあるミーティング室にお通しして頂き、平松さんと加藤さんに、ファンのつながりから生まれた“銭湯ぐらし”プロジェクトについて、まずは立ち上げのきっかけからお尋ねしました。
———早速ですが、この“銭湯ぐらし”が始まった経緯を教えてください。
小杉湯 平松さん(以下 平松):
元々『小杉湯』の隣に所有しているアパートを建て替える計画があり、住居者の方々に2年間での立ち退きをお願いしたんです。そうした所、予定より1年も早く立ち退きが済んでしまって……、残りの1年どうしようかという所から始まりました。「もったいないので、何らかの形で活用しよう」と思っていた時に、共通の知人に紹介してもらったのが加藤さんだったんです。
———その時点では加藤さんはもう住むことは決めてたんですか?
建築家 加藤さん(以下 加藤):
はい、『小杉湯』ファンだったこともあり、話を聞いた次の日に内見に行き、住むことを決めました(笑)。
加藤:
建築を専門にしていることもあり、風呂なしアパートを「銭湯つきアパート」としてブランディングしたら面白いのではないかと思ったのも理由の一つです。また、イラストレーターの塩谷さんも、同じタイミングで『小杉湯』で働くことになり、入居が決まりました。
———なるほど。そこから人が集まっていったんですね。
加藤:
平松さんから、『小杉湯』の常連さんで面白い活動を行っている人のプロフィールリストが送られてきたんです(笑)。
平松:
そうだ(笑)。名前と得意なことリストみたいなものを送ったよね。
加藤:
それを見て、「みんなでアパートに暮らしながら、銭湯が隣にあるからこそできる活動をそれぞれが行う」というアイディアを思いつき、企画書を作って平松さんにプレゼンしたんです。その後、皆さんを誘って、週一程度の会議を経て、プロジェクトの全体像を練っていきました。
———すごいです。そして結果的に、皆さんも住むって決めてらっしゃるんですもんね。
平松:
そうですね、その場所にコンセプトと愛があれば、人は集まって来てくれると思いました。この後の建物への実験的な要素が大きいけれど、銭湯の意義の再定義や、町にある大浴場の立ち位置のことなど様々なことが見えてきて、私自身も楽しいです。
———銭湯と人が繋いでいく「湯パート」にどんどん人が集まってきて、それぞれの得意分野でまた新しいものへと発展していく仕組みがとても素敵ですね。会議の過程や、皆さんの表情を伺うと、根底にはそれぞれの『小杉湯』への愛がとても感じられます。
「招く銭湯」のくらし
……それでは、直接「湯パート」の各お部屋に突撃して、実際に住んでいる住人の方々にお話を聞きたいと思います!
最初は「◯◯銭湯」という企画もので、自分で企画内容を決めて1ヶ月間「湯パート」に住む、柴田大輔さんのお部屋です。柴田さんは、これまで街のコミュニティづく
———いきなりですが、今回は1ヶ月滞在ということで、「〇〇銭湯」という企画について教えてください。
コミュニティビルダー 柴田さん(以下、柴田):
はい、今回「招く銭湯」と名付けて、友達を部屋に招いたり、宣伝しながらイベントであちこち飛び回ったりしてます。大体みんな『小杉湯』に入ってからこの部屋に一杯飲みに来たりしてくれますね。最近のイベントとしては、写真家さんと撮影兼町歩きを予定してます。
———いいですね〜。きっと、ここ高円寺という街もキーワードになってきますよね。
柴田:
そう。普段は鎌倉の観光地に住んでるんですけど、高円寺は独特の自由な雰囲気があって面白いです。(まだ住み始めて4日目ですけど。笑)
イベントに合わせて、鎌倉と高円寺行ったり来たりしてます。
———なるほど、まだ序盤なんですね! じゃあこの壁画は元から……?
柴田:
あ、これは友達が来て描いてくれました。まだ途中らしいです。モチーフは、銭湯の扇風機で……。
———すごい、こちらも楽しみですね。最後に、“銭湯ぐらし”をしてみて良かった事は何ですか?
柴田:
毎日隣の『小杉湯』に入るので、よく眠れるようになりましたね〜。すごい快眠。あと、『小杉湯』の営業時間内に帰ってくるようにするために、深酒をしなくなったかも。この良さを仲間に伝えられるように頑張ります!
「描く銭湯」のくらし
続いては、“銭湯ぐらし”初期から住んでいる、イラストレーターの塩谷歩波さんのお部屋です! お邪魔しまーす……。
———壁の絵が可愛い……!
イラストレーター 塩谷さん(以下、塩谷):
ありがとうございます。1年後には取り壊すということなので、好き勝手に描いちゃってます(笑)。あと私、一人暮らし自体が初めてなので、とても嬉しいです。
———そうなんですか! そう考えると住人みんな知ってると安心感ありますね。
塩谷:
そうですね。みんな忙しくてバッタリ会うとかは少ないけれど、たまに誘いあってサウナに行ったり、ご飯に行ったりもします。
———いいですね。そこから高円寺という街へ繋がっていったりはしますか?
塩谷:
しますね。高円寺の若い人との繋がりは広いです。私は実際『小杉湯』に勤めて“銭湯ぐらし”をして、社交的な性格になったと思います。
———塩谷さんはイラストレーター兼『小杉湯』勤務ということですが、何か「湯パート」ならではといった暮らしはありますか?
塩谷:
はい。私の場合は職住近接で、よくONとOFFが付けづらいと言われてる環境ではあるんですけど、銭湯がいいスイッチ代わりになってくれています。今までは家のお風呂だとOFFになりすぎてしまってた所も、ほどよくリラックスが出来たり、気分転換に銭湯に行く感じでとてもいいです。
———なるほど、それは強い。
塩谷:
あと、夏の夜に窓を開けて寝ると桶の音とか聞こえてくるんですよ。とってもいいです。カポーンって……。(賑やかすぎる時もたまにあるけど)桶の音、すごく癒されます。
———いいなあ……!
実際にお邪魔してみて部屋の中で話を聞くと、皆さん“銭湯ぐらし”を心から楽しんでいらっしゃる様子でした。
ファン同士のつながりが生み出す可能性
今回のインタビューを通じて、『小杉湯』、高円寺ならではの繋がりも多く、コミュニティデザインの面でもとても面白い試みだなと思いました。
発起人の平松さんも“銭湯ぐらし”を初めて半年、町にある大浴場としての『小杉湯』と、シェアリングエコノミーとしての「湯パート」の新たな可能性を楽しんでいる様子でした。彼らの言う通り、コンセプトと愛がたくさんの人を集めて、面白いことを次々と生み出している様子です。何よりファンのつながりが生み出すプロジェクトということで、様々な化学反応が起こりそうな予感がしました。
この“銭湯ぐらし”プロジェクトは、2018年2月頃までを予定しているそうですが、今後の活動にも期待が深まります。
皆様も是非、“銭湯ぐらし”、チェックしてみてくださいね!
以上、銭湯つきアパート「湯パート」からでした!
絵を描く原子です。将来の夢は、猫と一緒に高円寺に住むことです
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